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2011.10.15 (Sat)

本棚:『窯変源氏物語』スペシャル!

半年ぶりの蛸足図書室です。相変わらずいきなりです。
この半年はほぼ橋本治の『窯変源氏物語』を読んでいました。
途中ドイツ語の会話集やらで中断してますが。

これは文庫で全14巻持っています。
発売日にちゃんと買った珍しい本。
その前に、図書館で単行本で読んでます。
ほんとはおおくぼひさこさんの美麗な写真の挿入された
単行本の方を持っていたいが場所がない。
これを集めた写真集もあるのでそれを買うという手もありますが。

源氏表紙

口絵はこんな感じ。

源氏口絵1

さて。
源氏物語を最初に読んだのは高校生のころか?
田辺聖子の文庫『新源氏物語
本屋に並んだ美しい表紙に興味をひかれて。

田辺源氏

源氏編だけを3冊にまとめたものだったけど、
十分に物語の面白さを味わえるものだった。
個性的なたくさんの女性たちのキャラクターもすんなりと頭に入った。
もちろん受験の時にも役に立ったしね。
かなり大事にしていた本なのだけど、
手元にないんだよね。
今読み返したら分量的に物足りなさを感じるだろうか。

もっと源氏を読んでみたくてそのころ出ていたモノを手に取ってみたが、
谷崎潤一郎の訳はちょっと難しくて読みすすめず。
円地文子は読みやすそうだったけど今一つ乗れず。
瀬戸内寂聴はなんか生臭い。

大和和紀『あさきゆめみし』は大学の時に友人に借りた。
葵の上の最後のくだりで、これは田辺源氏がベースだなーと。

橋本源氏を読んだのは、それからかなり後。
単行本の初版が1991年だもんね。
橋本治の著書はもうかなり読んでた。

という長い前フリ。

私にとっての源氏物語はもう橋本源氏以外には考えられません。

橋本源氏は光源氏による一人称の小説です。
光源氏という特殊な男の視線から描かれることで
多様な側面を浮き彫りにする物語。
しかも橋本治が憑依してるから面白くないわけがない。

きちんと原文を読んでいるわけではないので、
どこまで彼の(補助的な)創作なのかあいまいなんですが
キャラクターが見事に肉づけされて、
豊かで深みのある複雑な味わいがあるのです。

源氏物語
=光源氏という絶世の美男(プレイボーイ)があまたの美女と繰り広げるラブアフェア、
な単純を絵にかいたような認識の枠には全く収まらない壮大な人間模様。

橋本源氏を読んでいると、
女は政治の道具であり、自身(と一族)にとっての重要な駒であり、
同時に政治を超えた個人の愛と性愛の問題であり、
しかしながらやはり個人の問題だけに留めることのできないものであり、
と、実に複雑に入り組んだ関係性であることが分かる。
この駆け引きや、予想外の展開で様相を変えていく自分の位置、
なんてのがもう本当に面白いのだ。
もちろん話者である光源氏個人の考え方、
ものの見方も掘り下げてあって唸ってしまう。

言葉の美しさにとことんこだわった文章も素晴らしい。
情景描写を読むだけで目眩がするような鮮やかな映像が頭の中に浮かんでくる。
日本語ってこんなに美しくて味わいがあって豊かなんだと再認識。
カタカナを一切使わず、日常では出てこないような絢爛豪華な言葉や漢字でも
浮きあがらずに流れるような自然さで繋がっていく。
セリフの中に出てくる古語も違和感なく、
むしろかつて持っていた知識をくすぐるような感じがイイ。
このへんはもう橋本治の持ってるインテリジェンスとセンスに裏付けされて
間違いがない。

これまでもう何度も読み返している橋本源氏だけど、
読むたびに新鮮で気がつくことが多い。
忘れてるだけと言う話もありますが。
今回は特に登場人物の描き方に唸りまくってしまった。
一般的な源氏の本や入門書にあるような類型的な性格や特徴ではカバーしきれない
もっと入り組んで、その人物自身ですら把握しきれないでいるような様々な要素が
光源氏の目線と、光源氏になりきった橋本治の冷徹な観察眼を通して
重層的に描かれている。
おそらく女性の人気が高いであろう夕霧なんかは
もう身も蓋もない性格描写が、さらっと、それでいて言葉を変えて何度も出てくるあたり、
なるほどなあ、と何度もニヤっとしてしまった。
光源氏の子でありながら、低い階位を与えられ、
勉学に励み階位を自ら登って行き、
同時に幼馴染に一途な思いを持ち続け、最後には一緒になる、
なんて女子好みの、真面目でひたむきで健気な美しい男、
というのが一般的な夕霧像なのかもしれないけど
むしろ夕霧の実直といえば聞えのいい子供っぽい頑固さとか、
頭でっかちで融通の効かないセンスの無さとか、
何考えてるのかよくわからないとりとめのなさとか、
実に鮮やかに人物像が浮き上がる。
で、最後の落葉の宮への対応の残酷さ(本人分かってない)なんかが
「うわーありがちー」とストンと腑に落ちたり。

あとわりと好印象だった花散里も、
最初に出てきた時は存在感の希薄なジミな登場だったのが意外だった。
源氏が長く面倒を見た女人の中ではかなりの厚遇だが
美人でなくても、気立てとセンスと控えめさである一定の位置をキープできている、
というのがよく分かる。
なんかお母さんになった妻、って感じなんだよね。
源氏からすれば、家のことは任せて自分は外で好きなことやって、
一応大事にしてるけど抱くほどじゃねー、という。
でも花散里の方も別にそれでいいやと思ってて、生活には困らないし、
子供の世話なんかをやいて満足しているというところが。
でもわりと女性の共感は得やすいような気がする。楽そうで。

皇太后(弘徽殿)は、きっと書いてて楽しかっただろうなあと思う。
筆がイキイキしてるもんなあ。
源氏の中でははっきりとした陽性の悪役で、
敬われ丁重な扱いを篤く受け、影響力も持っているのだけど、
誰からも女性として扱われてないというのが不憫。
逆に藤壺は捉えどころがないというか、
実際に何を考えていたのか分からないし、
政治的な面で力を見せて動いてくるあたりも不気味な印象。
翻弄される源氏のことも生まれた子供のことも、結局どう思っていたのかと
何か引っかかりが残る。
また次に読んだ時に、違う印象を持つかもしれない。

好きなのはやっぱり紫の上ですかねえ。
少年のようなきっぱりとしたまっすぐな性格と
屈託のない愛らしさ。
美しさと幸せに満たされた後に待っている、徐々に苦しめられていく終盤は
読んでいて胸が苦しくなってくる。

今回読んで一番印象に残った帖は「野分」かなあ。
台風をはさんで源氏が六条邸の各町を見舞っていく話で
それぞれの女性たちの性格やら、
見事な庭の前栽が風や雨でなぎ倒される様が
美しい言葉で描かれていて。
この時の嵐を楽しむような紫の上が魅力的なんだよねえ。

源氏物語は女人だけでなく、男たちも個性的で面白い。
朱雀院のなよなよとしてるのに執念深いところは、
最後のクライマックスに行くほどに存在感を増して気持が悪いのなんの。
イメージとして春風亭小朝が浮かぶのはなんでだろう。
ついでにイメージが浮かぶのは朱雀院の息子の春宮=ルーニー。
若いのに偉そうで好色なところとか。
色白でむちっとしてる感じが浮かぶのだ。

橋本源氏を読んでると、
それぞれの人間的な部分がとても濃く印象に残る。

平安の時代に厳然としてあるのが身分。
それに基づいたたくさんの決まりごと。
どうにもならない出自を、
娘という武器を足がかりに、出世の糸口を見出す男や女の思惑、
情勢によって移ろう栄華と浮き沈み。
明石の一族や玉鬘の物語は当時の人にどんなふうなインパクトがあったのかと。
服喪の期間も墨染の濃さも身につけていい色もきちんと決まっているような社会で
思いをかけることの際どいバランス。
簡単に行き来できない距離や身分、顔を見ることが性交渉に繋がるような距離感、
今ではとても想像できないような時間や距離の感覚が
読んでいていっそうもどかしさを感じて引き込まれていくんだよねー。

あとは宮中や季節ごとの行事などがとても興味深い。
五節の舞姫選出のエピソード、伊勢へ下る斎宮を朱雀院が送るシーン、
五十日の祝い(いかのいわい)や三日夜の餅、
薫物合せや女楽、と読んでいるだけで美しいイメージが膨らんでくる。

とだーらだーら書きまくったところで、
今は「竹河」まで辿りついて、いよいよ宇治十帖に入るんだけど、
ここからはキャラクターの魅力もイマイチなので
ちょっと休憩して他の本でも読もうかと思います。
この宇治十帖と随筆になる「源氏供養・上下巻」を読み終わって、
ようやく源氏を読み切った、ということに私の中ではなっております。

少しでも興味のある方には、橋本源氏はものすごくお勧めなんだけど
いかんせん量が膨大なのでね。
でもどんどん読みたくなる内容ですよ。
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タグ : 橋本治 窯変源氏物語 源氏物語

14:41  |  蛸足図書室  |  トラックバック(0)  |  コメント(4)

Comment

いつかは読みたい、読まねばと思い続けて早数十年(笑)の源氏物語。
田辺聖子の『新源氏物語』3巻揃えて買ってあるけど(中古書店で200円×3)
まだ手つかずで、本棚の中央にて鎮座してます。
橋本源氏、おもしろそうだな。

いつかはと思っていてもなかなか、、、本を読むのにも体力が要るのだと感じます。
すぐに眠くなるし、集中力も落ちてきたし、、、本当にこんなことにも年を感じる。
・・・がんばりまっす。(苦笑)
月子 |  2011.10.15(土) 19:55 | URL |  【編集】

田辺聖子の本、持ってるんですね。
あの本は、源氏を知るのにはとても良い本だと思いますよ。
最初に「空蝉」から入ってあれっ?と思うけど、
徐々に「桐壺」「帚木」のエピソードも出てきます。

源氏の人物をみんな「好き」の視点で描いているので、
自分の好みのキャラクターを見つけやすいかも。
月子さんならきっと読んで面白いと思うんじゃないかなー。

橋本源氏は確かに体力が要りますね。
彼の文章はくどいし(笑)
田辺源氏で大枠を頭にインプットした後で読むと、
もっと世界に広がりと奥行きと凄味が出ると思いますよ。
のもん |  2011.10.16(日) 15:56 | URL |  【編集】

あさきゆめみし

再度来生さんに出会ってズブズブとはまり出すちょい前だから、6年くらい前になるかな。友人の大学生のお嬢さんに頼まれて「あさきゆめみし」をヤフオクで全巻買ってあげたことがあります。近所の古本屋は軒並み高くてという事で。何で高いかというとみんな大学で使うからなんだとか。何で本の方じゃなくて漫画なの?とその彼女に聞いたら、わかりやすから先生も勧めているんだって。かなりのカルチャーショックでした。
れい |  2011.10.17(月) 07:12 | URL |  【編集】

確かに、あの漫画だと手っ取り早くストーリーを頭に入れるのには
ちょうどいいでしょうね。
大枠を知ってると、そこから先の理解も進むでしょうし。
でも言葉を覚えなそうだな。
キャラのイメージも固まっちゃいそうだし。
のもん |  2011.10.19(水) 17:08 | URL |  【編集】

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